作品情報

口上

十代の頃、自主映画や当時登場したばかりの若い監督たちが世界を新しく変えていくのだと思い、映画を志した。僕自身が「ギロチン社」的だった。数十年経ち、そうはならなかった現実を前にもう一度「自主自立」「自由」という、お題目を立てて映画を作りたかった。今作らなければ、そう思った。映画は多くの支援があったからこそ完成できた。何かを変えたいと映画を志した若い頃、自分はこういう映画を作りたかったのだと初めて思えた。あとはいざ、世界の風穴へ。そうなれれば本望だ。

瀬々敬久

解説

時代に翻弄されながらも<自由>を求めて疾走する
若者たちの辿り着く先は――

実在した「女相撲興行」と
「ギロチン社」
史実をもとにしたオリジナルストーリー

物語の舞台は、大正末期、関東大震災直後の日本。
混沌とした社会情勢の中、急速に不寛容な社会へとむかう時代。登場するのは、かつて実際に日本全国で興行されていた「女相撲」の一座と、実在したアナキスト・グループ「ギロチン社」の青年たち。女だという理由だけで困難な人生を生きざるを得なかった当時の女たちにとって、「強くなりたい」という願いを叶えられる唯一の場所だった女相撲の一座。様々な過去を背負った彼女たちが、少し頼りないが「社会を変えたい、弱い者も生きられる世の中にしたい」という大きな夢だけは持っている若者たちと運命的に出会う。立場は違えど、彼らの願いは「自由な世界に生きること」。次第に心を通わせていく彼らは、同じ夢を見て、それぞれの闘いに挑む――

時代に翻弄されながらも、歴史の影でそれぞれの「生きる意味」を模索して、もがき、泥だらけになり、時にかっこ悪い姿をさらしながらも、自由を追い求め、世界に風穴をあけたいと願った若者たちの物語を、フレッシュな「今」を感じさせる役者たちで描く――アナーキーなエネルギーが溢れだす青春群像劇、ここに誕生!

瀬々監督の想いに全員全力で応えたキャスト達

監督の情熱にこたえ、キャストたちは大正時代の若者役に体当たりで挑んだ。ヒロインである新人力士・花菊役には、約300名の応募者の中から選ばれ、野尻克己監督作『鈴木家の嘘』のヒロインにも抜擢された新人、木竜麻生。乱暴な夫との生活を抜け出し女力士となり、強く、自由に生きる道を模索する女性を瑞々しく演じている。「ギロチン社」のリーダーで、実在した詩人の中濱鐵(中浜哲)を演じるのは、数々の映画・ドラマで活躍し、今年も本作の他に2本の主演作が公開される東出昌大。東出による、世の中を変えたいという理想を持ちながらも、強請りや女遊びにうつつを抜かしながら日々を過ごす〝かっこ悪いけどかっこいい〝中濱は必見だ。

ギロチン社のもう一人の中心メンバーである古田大次郎役には、俳優・佐藤浩市を父に持つ寛 一 郎。本作が演技初挑戦でありながら、繊細さと荒々しさを絶妙なバランスで保ち、純粋な夢に殉じる青年を演じきった。中濱と心を通じ合わせる朝鮮出身で元遊女の女力士・十勝川には、『誰も知らない』、『ピストルオペラ』など国内外で高い評価を受け、演技力は折り紙付きの韓英恵が演じている。力士役の女優たちは、日本大学の相撲部に指導を受けて役作りをした。実際の女相撲をよく知る関係者も感動したという、文字通り体当たりの女相撲シーンは必見だ。他にも、渋川清彦、山中崇、井浦新、大西信満、嘉門洋子、大西礼芳、山田真歩、嶋田久作、菅田俊、宇野祥平、嶺豪一、篠原篤、川瀬陽太など、今の日本映画界になくてはならない個性派キャストが揃っている。さらに、世界を舞台に活躍する俳優の永瀬正敏がナレーションを務めている。

日本映画界を代表するスタッフが集結

キャストのみならず、スタッフにも日本映画界を支える実力派たちが集結した。瀬々敬久と共に脚本を手がけたのは、映画『バンコクナイツ』などで知られる映像制作集団「空族」の相澤虎之助。「空族」以外の作品での脚本執筆は、本作が初となる。『ヘヴンズ ストーリー』、『彼女の人生は間違いじゃない』の撮影監督でもある鍋島淳裕の臨場感あるカメラは、登場人物のあふれるエネルギーをそのままに画面に焼き付けている。黒澤明の『羅生門』や溝口健二作品に参加してきた日本映画界の至宝、御年91歳の美術監修の馬場正男らによるセットは当時の猥雑さや混沌を完全に再現。日本アカデミー賞で3度の受賞経験を持つ安川午朗による音楽も、激動の時代に漲る熱気を見事に表現している。また、迫力ある題字を執筆したのは、『ゆきゆきて、神軍』、『HANA―BI』など多くの名作を手がけてきた、映画タイトルデザインの巨匠・赤松陽構造。ロケは京都松竹撮影所を拠点に、関西で敢行された。

物語

大正末期、関東大震災直後の日本には、不穏な空気が漂っていた。軍部が権力を強めるなか、これまでの自由で華やかな雰囲気は徐々に失われ、人々は貧困と出口の見えない閉塞感にあえいでいた。

ある日、東京近郊に女相撲一座「玉岩興行」がやって来る。力自慢の女力士たちの他にも、元遊女の十勝川(韓英恵)や、家出娘など、ワケあり娘ばかりが集まったこの一座には、新人力士の花菊(木竜麻生)の姿もあった。彼女は貧しい農家の嫁であったが、夫の暴力に耐えかねて家出し、女相撲に加わっていたのだ。

「強くなりたい。自分の力で生きてみたい」と願う花菊は、周囲の人々から奇異の目で見られながらも、厳しい稽古を重ねていく。いよいよ興行の日。観戦席には、妙な若者たちの顔ぶれがあった。彼らは「格差のない平等な社会」を標榜するアナキスト・グループ「ギロチン社」の面々で、思想家の大杉栄が殺されたことに憤慨し、復讐を画策すべく、この土地に流れ着いていた。「ギロチン社」中心メンバーの中濱鐵(東出昌大)と古田大次郎(寛 一 郎)は、女力士たちの戦いぶりに魅せられて、彼女たちと行動を共にするようになる。

「差別のない世界で自由に生きたい」――その純粋な願いは、性別や年齢を越えて、彼らを強く結びつけていく。次第に中濱と十勝川、古田と花菊は惹かれあっていくが、厳しい現実が容赦なく彼らの前に立ちはだかる。

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